【随筆・紀行】祭りを楽しむ旅〜 福岡県 筥崎宮 放生会 編 〜

祭りを楽しむ旅〜 福岡県 筥崎宮 放生会 編 〜

文責・鞘ヶ谷 宗範

立ち並ぶ出店に威勢のよい神輿、そして厳粛な神事。目の前に広がる日常とは違う光景。とりわけ何の取柄もなく、平凡な少年時代を過ごした私にとって、神社のお祭りは毎年一番楽しみな恒例のイベントでした。そこは限られたお小遣いを手にして出店を横目で追いかけながら参道を行ったり来たり、欲望と格闘する厳しい試練の場でもありました。結局欲望に勝つことができずに帰りのバス賃までも使い果たし、数キロ離れた自宅までトボトボと歩いて帰っていたことを鮮明に記憶しています。あれから二十年ほど経った現在でも、お祭りの持つ独得な雰囲気に吸い寄せられてついつい足を伸ばしてしまいます。お祭りで手に握り締める物はお小遣いから生ビールに変わりましたが、そうすると車の運転ができませんので、やはり歩いて帰るという有り様です。いまだ欲望に勝てない不甲斐無さを「健康のためだ」と汗だくになりながら自分に言い訳をしてメタボリック・シンドロームと格闘する。厳しい試練の場であるところも昔から変わりないのであります。さておき、お祭りを通じて神道に興味を持った私ですが、神道のお祭りには威勢のよいもの、厳粛なもの、華やかなもの、面白おかしいものなど、歴史や風土に根付いた多種多様なお祭りが全国各地で行われていることは皆さんもご存知のことだと思います。そこで今回、九州は福岡県にある筥崎宮の放生会を紹介してみたいと思います。

筥崎宮(はこざきぐう)

 〈別称〉 筥崎八幡宮

 〈祭神〉 八幡大神(応神天皇)、神功皇后、玉依姫命

 〈旧社格〉 官幣大社(大正三年)

 〈例祭日〉 九月十五日

 〈主な神事〉 玉取祭(正月三日)、放生会

 〈国重要指定文化財〉 本殿、拝殿、楼門、石灯籠、一の鳥居

 〈鎮座地〉 福岡県福岡市東区箱崎一‐二十二‐一

筥崎宮は別称筥崎八幡宮と呼ばれることからも分かるように、八幡大神(応神天皇)を主祭神として、応神天皇の母君である神功皇后、神武天皇の母君である玉依姫命を御祭神とする由緒ある式内社です。式内社とは延長五年(九二七年)に天皇に献上された『延喜式』に登場する重要な神社のことで、古い歴史と多くの崇敬を集めてきたという特徴があります。そして大分県の宇佐八幡宮、京都府の岩清水八幡宮とともに日本三大八幡宮としても有名です。また、鎌倉中期の蒙古襲来の折、ご神助によって国難に打ち勝ったとされ、厄除けや勝運のご利益があることでも知られています。鎮座地に近い玄海灘を望む海岸の一部では、元寇の侵略に備えて造られた「元寇防塁」の遺跡(国指定史跡)を現在でも見ることができます。

放生会のようす

一般的に放生会は、「ほうじょうえ」と読みますが、ここ筥崎宮では、「ほうじょうや」と呼ばれていて、九州最大規模の秋祭りとして毎年多くの露店と参拝客でにぎわいます。放生会の目的は、生きとし生けるものの生命をいつくしみ、実りの秋に海の幸、山の幸に神々に感謝して平和を祈願するお祭りだといわれています。筥崎宮の放生会は、延喜十九年(九一九年)に始められたとの記録が残り、江戸時代に一時中断した時期がありましたが、その後再興され現在にまで至り実に千年以上も続く伝統的なお祭りとして親しまれています。

「お祭り」と一言で表現すると簡単に聞こえますが、神道のお祭りでは、一連の行事の中で厳格な儀礼に則った数多くの「神事」が執行されています。筥崎宮の放生会では、九月一日早朝の「お神輿清め」に始まり、九月十八日の「放生神事」に至るまで、十七回にもおよぶ主だった神事が執り行われているのです。九月十五日は「放生会大祭」が行われ、神饌(しんせん)が御祭神に献上されました。(写真)一つ一つの神事の意味を知ることもまた、お祭りの楽しみ方といえるでしょう。

参拝が終わると次の楽しみはやっぱり・・・。近年ほとんど見かけなくなった出店が見られるのも筥崎宮放生会の魅力のようです。

神職が儀式を執り行う神聖な空間、しかしそこを少し離れると出店でにぎわう喧騒な空間。まさに究極の聖と俗との世界が隣り合わせになった非日常的な世界。これも神道のお祭りに共通した特徴だといえるのかもしれません。筥崎宮放生会もそんな魅力に溢れた素晴らしいお祭りでした。今回詳しく紹介できませんでしたが、放生会では郷土玩具としてガラス製のビードロとおはじきが販売されます。筥崎宮の境内で売り出されるものは、毎年即売り切れとなるほど人気があるそうです。また、かつて名産品だった生姜を購入する風習が残っていて、葉付きの新生姜を売る出店などもありました。まだまだ多くの興味深い由緒がある筥崎宮ですが、今回は参拝者の一人という立場から放生会に限定して紹介させていただきました。

このページの掲載・更新日
2007-09-30
(以下略)